2012年4月12日木曜日

ゆとり教育で育った世代は、本当に仕事ができないのか

ゆとり教育で育った世代は、本当に仕事ができないのか


 「若手社員が思うように育たない」「早期離職者が増えている」「メンタル不全者も増加傾向にある」――。
 これら新人・若手に関する三重苦といえる問題を抱える企業が確実に増えています。コンサルティングに携わる私たちの分析では、2005年頃からこの問題が増え始め、今や企業規模や業種に関係なく、あらゆる企業で発生している共通問題だと認識しています。
 では、原因はどこにあるのでしょうか? また、どのような対策が効果的なのでしょうか?
 原因としてよく挙げられるのが、「ゆとり教育」です。これは本当でしょうか。
 この考え方には大きなリスクがあるように思えます。ゆとり教育は、学力面への影響がよく話題になりますが、職場で課題となるのは学力以外の部分。確かに、教育の影響は大きいかもしれませんが、教育というのは学校だけで成り立つものでもありません。何か問題がすり替えられているように感じざるを得ません。

 私たちは、実際の職場の方々に会ってこの問題を分析し、対策を一緒に進めていますが、同じようなすり替えが職場内でも起こっています。新人・若手問題の原因を尋ねると、人事担当の方は「これだけ苦労して採用しているのに、現場は育てる意識が希薄なんじゃないか」と言います。苦労して採用し導入教育を施した自負があるから当然の考えでしょう。
 一方その職場の上司や先輩に尋ねると、「最近の新人はなっていない。もっと教育をしっかりしてから配属してほしい。そもそも採用が間違っているのではないか」という声が多いですね。これも余裕のない今の職場環境を考えれば、やむを得ない発言でしょう。
 しかし冷静になってこの現象を見ると、何か感じませんか? 私は、ここに新人・若手の育成問題がうまく進まない落とし穴があると考えています。育成に関わる人事担当者や上司・先輩たちが、みな誰かの責任にしようとして自分ごと化していない。つまり「他責の構造」に陥っているのです。
 誰も心の中では自分の課題だと思っていない状況で、研修や採用基準見直しなどの施策を施しても、魂の入ったアクションにはならず、形だけの遂行になるのは目に見ています。

●新人・若手がダメな理由は“教育ができない現状”にあり
 では、この問題はいったい誰の責任なのでしょうか?
 答えは「誰の責任でもない」。クライアント企業とともに要因を分析して分かったことは、これは誰の責任でもなく、社会の構造変化がもたらした、いわば“育成の構造不況”とでも呼ぶべき問題でした。つまりバブル崩壊以降20年以上の時間をかけて、企業における育成を取り巻くあらゆる環境が「人が育ちにくい」方向へ変化してきたのです。

まずは、仕事内容の変化です。国内経済の成熟化やIT化、グローバル化の進展によって企業間の競争が激化。こうした環境の中で、仕事の高難度化が進み、新人・若手にとって「成長に適度なサイズの仕事」が激減しています。その状態で育ち成果を出すには、周囲の支援がこれまで以上に不可欠。しかし周囲の上司や先輩も同じく過酷な環境下で仕事をしているため、新人に関わる余裕がありません。したくてもできないのが現実です。このように今の新人は、いきなりかつてなく困難な環境下に放り込まれ仕事をするように変化しています。

●「現実対峙力」が低下傾向に
 その環境下で求められる力は何でしょうか? 何を育成しなければいけないのでしょうか?
 この厳しい環境下において成長している若手とそうでない若手を比較分析したところ、興味深い事実が見えてきました。成長を分けていたのは学力や知識・技量ではなく、厳しい環境下でも逃げずに向き合い、何とかしようとする行動力でした。私たちはこれを「現実対峙力」と呼び、今の新人・若手育成において最も重要な育成目標に置いています。

 「イマドキの新人はなっていない」という声は決して学力ではなく、この現実対峙できない新人の「心の姿勢」に対して向けられていることを理解する必要があるでしょう。
 では新人の現実対峙力がどうかというと、残念ながら低下傾向にあります。
 しかし、ここで他責の構造に陥ってはいけません。新人の現実対峙力が高くないのは本人のせいではなく、彼らが生まれ育った環境の質的変化が原因と考えられるからです。
 上の図の通り、今の新人・若手の多くは経済的に豊かな生活を送ってきたので、現実対峙力を養うために不可欠な厳しい環境下でもがき苦しんだ経験が少ない。この環境は時代の変化によるものであり、本人たちの責任ではないはずです。
 一方、上司世代が生まれ育った時代はこうした経験がアタリマエにできる環境がありました。ゆえに、上司世代は「社会人なんだからこれくらいできてアタリマエだろう」と無意識に思いこんでいるのです。しかし、この現象は本人の能力や努力が足りないのではなく、社会の構造変化による経験不足が原因――ととらえ対策をとることが必要でしょう。

●新人・若手と向き合う私たちに必要なこととは?
(1)自分の新人時代と比較しない、今の若手は伸び悩むのがむしろ当たり前
 かつて日本企業の新入社員の成長度合いは、「2:6:2」と言われていました。最初から順調に成長していく人が20%、伸び悩みが20%。残りの60%は普通に成長できていました。
 ところがこの育成の構造不況が進んだことで、私たちの感覚では、今や最初から順調な新人はわずか5%に過ぎず、伸び悩みが約80%を占めている印象です。今は「伸び悩む状態」がアタリマエの時代なので、「なぜこんなこともできないのか」「やる気が感じられない」などと新人を嘆いてはいけません。
 ここからどうリカバリーし成長軌道に乗せていけるかが、新人・若手そして先輩・上司の共通の課題なのです。自分たちの新人時代の状態と比較して、伸び悩む状態を問題とし、さらに原因を他責にしていては決して新人・若手育成は前に進んでいきません。

(2)変わるべきは我々。思い込みを捨て、まず新人・若手の話を聞こう
 変わらなければならないのは新人・若手ではなく、受け入れ側である先輩・上司でなければいけません。先輩・上司はパラダイム転換に適応した新たな育成システムに取り組んでいく必要があるでしょう。

しかしながら、「パラダイム転換」といっても「すぐに考え方は変わらない」という人も多いかもしれません。確かにその通りです。まず大事なことは「最近の新人・若手はこうだから」という思い込みを捨てること。
 例えば、あなたが依頼した仕事に対して新人・若手が何も報告・相談をしてこない場合を考えてみてください。その時に「最近の新人・若手は何も聞いてこない。やる気がないんじゃないのか?」と決め付けるのではなく、「なぜ聞いてこないのか? 何を考えているんだ?」と発想を切り替えて、まずは新人・若手の話を聞いてみてください。そうすると、「聞きたかったけど、忙しそうで質問できなかった」など、何らかの返答があるはず。新人・若手は自ら働きかける力は弱いですが、こちらからの問いかけにはちゃんと答えてくれるでしょう。

 起こりがちな状況としては、新人・若手の話を聞かずに「何で聞いてこないんだ?」といきなり話してしまうこと。新人・若手は知らないことを聞くことに慣れていません。

 そのような状況でいきなり話をされると、怒られたと感じて益々話をしなくなってしまいます。いきなり「話す」のではなく、まずは新人・若手の話を「聞く」ことから始めてみてはどうでしょうか。
 育成の構造変化は、もはや止めることができない不可逆な流れです。ですが、構造変化を嘆いていても何も変わりません。現場の上司や先輩、1人1人の行動の変化が新人・若手の早期戦力化につながり、会社全体の活性化につながるのです。

 4月。自分の部署に新入社員が入ってきた、という人も多いでしょう。その新人たちの働きぶりをみて嘆くのではなく、自分自身に何ができるのかを考えてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

[桑原正義,Business Media 誠]

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