2018年9月24日月曜日

ワークショップ感想 2018年9月22日 暗闇の中で「耳をつくる」山川冬樹 



先日9/22は、現代芸術家の山川冬樹さんによるワークショップ
真っ暗闇の中で、超低周波と超高周波を織り交ぜた音環境に身を置くという、
なんとも不思議な体験をしてきました。

超低周波と超高周波ってなに?
超低周波を例えると、バイクのエンジン音みたいな感じ。低い音が聞こえるというだけでなく、
身体が音で振動する。ワークショップ中は、建物全体が地震の初期微動のように震えていました。
そして超高周波は、耳鳴りのような感じ。音の矢が、キーン!と頭を貫通していきます。

この全く異なる2種類の音の中で、さらに何も見えない真っ暗闇の中だから、
もう頭が混乱してしまいそうになるのは想像がつくでしょう。(笑)



さて、ワークショップの始まり。
最初は耳栓をして、外部の音を遮断します。
寝転ぶと、しだいに辺りが暗くなり、真っ暗闇の世界へ。

鼻から息を吸い、口から吐くように呼吸をしてみてくださいと山川さん。
普段はしない呼吸法なので、なんだか地上にいるような気がしません。
たとえば、ダイビングで深海に潜っているような、果てしない宇宙にいるような。
呼吸のしかただけで、全く別の環境にいる気がするのはおもしろいです。

超低周波が鳴り響いて、暗闇の中で身体が振動しているのを感じる
山川さんの声の合図で、立ち上がる。
すると、超低周波で身体が振動して分解されていくような感じがして、
立ち上がった瞬間、上半身だけしか自分の身体がついていないような感覚になりました。
たしかに立っているのだけれど、下半身がない感じ。
なんだろう、これ。自分の身体が暗闇の中に分散していくような、解体していくような、
不思議な感覚でした。
そして、山川さんの声の合図で耳栓をとります。すると、ふわっと世界が開いて、
解放されていく感じがしました。
自分の中で振動していたものが、外に広がっていくような、とても自由な感覚です。

そして、歩く。
真っ暗闇の、何も見えない中を、ただ自分の肌感覚や耳の感覚だけで歩く。
明るいときに自分がどの辺りにいるかは把握していたので、
なんとなくこの辺りを歩いているんだろうなと思いながら。
顔の向き(耳の向き)で聴こえる音の大きさの変化と、肌で感じる空気の温度差で、
スピーカーや壁との距離を測りながら。歩く足音、息づかい、体温で、人の場所を確認しながら。

山川さんは、暗闇の中でみんなが同じ方向に歩いているのがわかったと、後の感想で言っていました。
たしかに、無意識的に近くにいる人にぶつからないように、
見えないながらも同じ方向に歩いている気はしていました。
互いに協調し合い同じ方向へ歩く、日本人としての社会のあり方なのかもしれない。
山川さんが「暗闇の中に社会が見えた」と表現されていたのにグッときました。

さて、また立ち止まり、一度その場に寝転びます。
すると、今度は超高周波の音域が拡張されていき、どんどん音が昇華していくようです。
そして、音の上昇とともに、立ち上がっていきます。

山川さんの合図で全員の遠吠えが始まります。犬とか狼になった気持ちで、
暗闇の中の誰かに呼びかける。
全員の声が折り重なって、なんだか大合唱をしているよう。
途中、声とは違うビリビリした音を感じました。一瞬山川さんが電子音を加えたのかと思いましたが、
後で解説を聞くと違うそうで、ある音とある音が共鳴して別の音が生まれる「ハウリング」という現象でした。

遠吠えの終わりと同時に音が止みます。
シーンと静まった暗闇は、とても孤独を感じました。たったひとり取り残されてしまった感覚。
そこに、わずかに光が灯されていきます。
これは何か。静かに大地の夜明けが近づく感覚に似ています。
昔アメリカのブライスキャニオンに行ったときに見た、真っ暗闇の中から太陽のかすかな光が溢れ
、大地が目覚めていく風景が思い出されました。
大地の朝は、いつもゼロから始まる。
それに対して、私たちの住んでいる都会は、1度もゼロに戻らず走り続けているのだなと。
そんなことをふと感じました。

本当に、今回のワークショップは「旅」をした気分でした。とても遠いところへ。とても遠い感覚へ。

空間が完全に明るくなって、現実の世界へ戻ります。

参加者の感想は十人十色。
耳栓を外したときの開放感、遠吠えをする中でのコミュニケーション、
誰にも見られていないことへの自由、人との距離への恐怖、反対に人と触れ合うことへの安心感、
見えないものが見えているような感覚、時間感覚の誤差、高周波へ人が集まる習性、などなど。
当にさまざまな意見が出ました。

自分の収穫としては、これまで参加させてもらった暗闇のワークショップは、音を聴いて瞑想へと導く、
音の生感に触れる、みたいなものが多かったけれど、
今回は、「暗闇と音による身体の解体」という全く別の感覚を得た、ということ。
また続編の開催を期待しています!


文責:高橋茉莉子(インターンシップ)

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