2018年11月3日土曜日

さだまさし のめげない”思考法とは?

 借金や人間関係など人生には様々な問題がつきもの。逆境に立ったときこそ、折れない心の持ち方が重要になってきます。どうすれば、不安に押しつぶされずに、ポジティブな思考に変換できるのか。35億円の借金を完済したシンガー・ソングライターで小説家のさだまさしさんに聞きました。

 いやあ、さだまさしさんのコンサートは圧巻だ。コンサート会場は文字どおり、老若男女が集まる「祭典」。幕開けは27歳年下のシンガー・ソングライター、ナオト・インティライミさんと2人で作った超イマドキで華やかな曲。のっけから観客総立ちである。しかし2曲歌ったあと、さださんは皆に語りかける。
「あっ、途中で寝ていただいても全然かまいませんから。寝やすい曲、僕、いっぱい作ってきましたからね」
 あはは、さださん最高! しかし寝ている暇などありはしない。歌詞の言葉ひとつひとつが心にしみてくるさださんの歌には、やはりどんな人間も心を鷲掴みされてしまうからだ。
 数多くのヒット曲を持つさださんだが、その人生は決して順風満帆だったわけではない。
「28歳のときに製作した映画『長江』で総計28億円の借金を背負いましたからね。僕なんて百敗将軍です」
 映画では、中国で一番長い川・長江(揚子江)を源流に向かって遡っていった。通り過ぎる街と人々と、その歴史を追うドキュメンタリーフィルムを作ったのだ。
「僕の祖父母、父母は中国で青春時代を過ごしました。だから中国に対する憧憬や郷愁に似た思いが、僕の中にあったんです」
 映画製作は父の夢でもあった。そこで製作総指揮は父が務めたのだが、思いのほか製作費はかさんでいき、最終的にはなんと28億円という借金になってしまった。あの、正直、ビビりませんでしたか?
「正直、実感がわかなかったんですよ(笑)。28億という数字は見ましたよ。全部赤い文字でね、28という数字のあとにゼロが八つついていて」
 そして数字の前には真っ赤なマイナス記号。いっそ逃げ出したいとか、思わなかったのですか?
「僕はメンタルが弱い人間ですからね。それゆえに『借金を返し続ける』という“逃げ”を選んだんです」
 返し続けることが、“逃げ”なのですか?
「はい、だって自己破産するとかって言ったら、これはもう“攻め”ですよ。何と言っても自分の人生に対して、ある種の決断をしなければならないわけですから。そんなの怖くて、僕には考えることもできませんでした。そして『もうお願い、いっそのことダメになるまで走らせて~!』というのが、僕の選んだ道です」
 幸いレコードは売れていたので、印税は入ってきた。しかしそれでは全然追いつかない。さださんは1年にコンサートを100回以上行い、ひたすら借金返済にあてた。
「そうやって走り続けている間になんとか返済のメドがついてきて、利子も含めて35億円を7年前に完済したんです。30年かかっちゃいましたけどね」
 ちなみに今までのコンサート回数は、現時点で日本一。その数は、4300回を超える。
 途中でもう無理と思うことも、まったくなかったのでしょうか。
「そりゃ、『まだ返さないといけないんだ』と思ったことは何回もありましたよ。でもそもそも、銀行というお金のプロが、こちらが返せると判断してお金を貸してくれたわけですから。そうしたらこっちも『返せる』に賭けなきゃ」
 そこに途中下車はないってことですね。
「もちろん。山を登り始めたら、途中で下を見て『怖い』『やめたい』と思っても、自分から麓に向かって飛び降りたりしないでしょう? それと同じですよ」
 走った。とにかくがむしゃらに走り続けてきた。
「そうホント器用な人生ではなかったですよねえ。でも人間て本当に追い込まれると何とかしようとあがくものです。もしいま何かしら人生に困難を感じている方がいるのであれば、僕ができる提案は『開き直ること』です。開き直って、まずは『どうにかなるんじゃない?』って自分に言い聞かせてください。そして物への執着などはなくすことです。手放せるものは手放して、新しく生き直す意識を持つことが、僕は一番大切なことだと思いますよ」
 いまの世の中、定年後の人生も長い。定年後は定年後でスパッと人生を切り替えたいところだが、
「それは僕は、ゆっくりでもいいんじゃないかなと思っているんです。老後の自分の居場所をつくろうと“悪あがき”をすることはない。無理をして新しいコミュニティーに入ろうとすれば、それは最終的には自分を追い詰めていくことになりますから。自分の居場所は、つくるものではありません。心地いい居場所は探すもの。ちょうどいい場所に出会うまではちょっとぐらい孤独を楽しんでもいいんじゃないかな」
 そして心にとめておきたいのは「生きることはせつないこと、苦しいことの連続なのだ」ということだ。
「人生には苦しいことがあって当たり前なんです。それを前提に生きていないと、何か問題に直面したときにすぐ、めげてしまいますよ。でも何があっても、自分が不幸せだなんて思わないこと。不幸せは、自分が不幸せだと思い始めたところから始まるんですから」
 ああやっぱり神様、仏様、さだまさし様。最後は金言で、人の胸をスパッと射ぬいてくれるのである。(赤根千鶴子)AERA dot.より引用

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